非常勤講師顛末記 その1

 8年間、常勤講師として勤めた県立高校定時制を辞めた。そして、4月からは別の県立高校の非常勤講師として働く。新任の教諭が研修をするので、そのために誰かが担わなくてはならない授業時間ができる。そこを私が非常勤講師として授業をする。
 
 3月23日、県教委の内示が出た。それによって、正規採用の教員の異動が事実上決まる。その日、講師の私は校長室で、A高校で非常勤講師の採用があるから、そちらに異動することができると告げられた。それが金曜日のことだ。
 
 さらに同じ日の4時過ぎに異動先のA高校に電話をかけるように指示され、いわれた通り、ほぼ時間をまもってA高校に電話をかけた。電話の向こうは校長のO先生。週明けの26日にオリエンテーションがあるけれど、それは非常勤講師のためのものではないので、当日4時過ぎに来てほしいというので了解する。
 
 週明けの26日、定時制の仕事を早めに終えて、A高校に向かう。まずA高校の校長室に通された。校長は、人のよさそうな方で、その誠実そうな話し方に少しほっとしたが、さて、その後だ。次は事務室に行き、事務長と向かい合い、そこで提出すべき数枚の書類を渡される。

 その中の一つで、正式名称は忘れたが、身体の健康を証明するものがあり、それを提出してくださいという。いや、ちょっと待ってほしい。少なくとも胸部レントゲンは、前年の12月に撮影済みで、3カ月しか経っていないので、短いスパンで放射線を浴びるのは困るのだと説明した。
 
 その話は何とか事務長にも通じたもようで、それではレントゲン検査のコピーを持参するということで、その場での話は終わることになった。
 
 ところが、その日帰宅して書類をよく見直すと、前年度県立学校で勤務していた者は身体に関する証明書類は提出しなくていいと書いてあるではないか。そこで一夜明けて朝から異動先の高校へ行き、私は前任校で常勤講師として8年も働いていたから、身体に関する証明書類は提出しなくてよいのではないかと、その日は退任式で忙しそうだった事務長に聞き直した。

 実は、事務長に話す前に、幸い顔見知りの事務職の男性がいたので、その人に提出しなくてよいという確認をとり、その後、事務長に提出しないことを再確認することができたというわけだ。ところで、なぜそういうことになったのかといえば、前任校で私が、常勤講師として働いていたことを、事務長は知らなかったというのだ。

 常勤講師とは、教諭職の先生に比べたら歴然とした給与格差もあるが、いくつもの仕事を除いて、ほぼ同じ仕事を担う。だが、それを意識して手抜きをして働いたことなどはもちろん一度もない。そういう状況で働いてきた私の8年の経歴が、全く視野の中に入っていなかったと、事務長は私に言ったのである。

 さて、こうして新しい異動先での私の第一歩は始まった。それにしても私は、一時間いくらで働くことになるのか。それさえも教えてもらってはいない。労働条件については、きちんと聞くつもりだが、これが非常勤講師の扱いなのかと再認識するはめになった。