生きていれば、取り返しのつかないことなど
いくらでも出会うし、自分自身もそれに加担してきた。
けれども、取り返しがつかないことが、増えれば増えるだけ、
人間は破壊され、地球は破壊されていく。
そればかりではない。一人では決して生きていけない人間の
相互のかかわりは寸断され、それは人間を孤立へと導く。
ある日私は、取り返しのつかない暴言をあびた。
一人の心の幼い少年の発して言葉ではあったが、
それは私に向けられたものだった。
私への不信や不満からのものではない。自分の言葉が
どこまで許容されるのかを、常日頃から試しているような少年だった。
もちろん、少年に謝罪をもとめ、少年はそれに応じてはくれた。
「暴言」が蔓延している社会は劣化した社会である。
「嘘」が公然とまかり通り、他者を貶め、愚弄するような言説が
歯に衣着せぬ「本音」を言ってるだけだと評価され、
歓迎されることさえ珍しくないのは周知のことだ。
人は言葉で考えている。言葉は人の意識を形作り
それに基づいた行動へと発展していく。
脳裏に浮かんだ言葉を反芻し、その言葉の意味を吟味しながら
人は何が本当に正しいことなのかを見つけ出していく。
そうした一連の行為の前提には、自分が人間であること、
他者とともに支えあいながら生きていく事しかできないという
謙虚さの裏付けがある。
そうした状況が失われていく社会に未来などない。
今は当事者にならなくても、劣化した日本状況に否を唱えない限り
遠からず、自らが、心身ともに傷つけられる日はやってくる。