南の島通信 12

 雨の中を買い物、といったって、南の島のことだから、中古の愛車ワゴンRに乗って

 島の中をドライブしながら、窯元めぐりをする予定だった。

 でも、雨や風もそれなりのものだったし、

 一人心地よく、どうやって生きていこうかなんて考えて走っていたら

 そう遠くへ行くこともあまり意味もないかなって

 自分なりの思い方で、かえって素敵な買い物コースを楽しむことができた。

 まず、ずっと使わなかった電子レンジを

 ディスカウントショップに800円で引き取ってもらったところから話は始まる。

 8年前の製品なのに、申し訳ない値段だった。

 お店の方と前から知り合いだったということもあるけれど、

 気を使ってくれたなと思ったりもした。

 そこで、同じ店で「ラジカセ」を購入。

 ここのところ、身辺整理をしようと、家の中をあれこれ片づけていたら

 懐かしい音楽カセットテープがいくつも見つかって、

 それをかけて見たいと思っていたのだ。

 家にあったCDラジカセは、あまりに古くて

 ラジオを聞くのがやっとだということもあったので、

 なんだか、すっかり嬉しくなってしまった。

 値段は1500円。差し引き700円で買ったことになる。

 

 その次は、やはり知り合いのパン屋さん。

 その主人は、去年の暮れから闘病生活をしていたが

 3カ月余りで、何とか回復して、パン屋を再開。

 お店の中には、いろんなパンが並んでいた。

 それにしても3カ月のブランクは、大きかったはずだ。

 突然の休業に、はたしてお客さんは戻って来てくれるだろうかと

 何より開店して間もなかったこともあるし、

 突然の病気で店を閉めてしまったものだから、

 生活苦と、先行きの不安は、波々ならぬものがあっただろうと思う。

 ああ、でも本当によかった・・。

 明日の保証などないのは、いずこも同じことだ。

 ただし、互いの無事を喜び合えるということはある。

 民衆に与えられている唯一の幸福感。

 これは、同じ階層の者にしかわからないかもしれない。

 

 

 それからもう一つの訪問先は「息峠焼」。

 「いこいとうげやき」と読む。

 そこの窯元とは、春と秋の陶芸祭りのときにしか会わないが

 この島で、一番味わい深い焼き物を作る人だ。

 たった一人で暮らし、自然の中で薪の火で上質の器を作る。

 ずっとずっと昔、奥さんが亡くなり、

 二人の子を育てながら、焼物作りをしてきたが

 最近、息子さんを病気で亡くしている。

 口数は少ないが、楽しんで焼物を作っていると、はっきりと言葉にしてくれる。
 
 フライパン焙煎のコーヒーを、彼の焼いたカップで飲む。

 さらに、自家製の蜂蜜をそれにひと匙いれて、 

 香りのいい、まろやかなコーヒーをごくりと飲むと、

 これ以上の贅沢はないと、心が温かくなってくる。

 ・・・というわけで、素敵な時間を過ごして帰ってきた。

 しかも、パン屋でも窯元の所でも、いただきものなんかもしてきたのだから。