週末の朝 体も心もずしんと重い
明け方から 強風で 窓ガラスが音を立てた
ガタガタいって 今にも 壊れそう・・・
だから 眠れなかった
ああ でも 古い家の 時の流れの中に
私の人生があったというだけのことか

「夜明け」という言葉が
ふっと 思い出された
「夜明け」・・・
幼かった頃 病気をして
「ウン ウン」と唸っていても
不思議に 朝が来ると

痛みが やわらいでいたっけ
あれはいったい 何の力だったんだろう

そうだ だから 人は 
「夜明け」を待つようになったのかもしれない
それは多分 幼いころの記憶が
心の底に 残っているためなのかもしれない
今日も私は 「夜明け」を心から待っている
でも 「夜明け」は来ないかもしれないと思い始めてもいる



歳なんですよ もう
だから 話も通じません
もう やめにした方がいいかもしれません
わたしの仕事は 終わりました
老女から 孫に話す言葉なんて
こんなふうに 伝わっていかなくなるのでしょう

黙って この場を去っていきたいと思います
おおげさに 別れを告げるのはごめんです
ましてや 私の無きに等しい事績などが語られて
形ばかりの 送別などを受けるのは耐え難いのです
若い人たちを 笑わせてあげられなかったのは
私の人生に喜びがなくなっていたからでしょうか
いえ 人生の重さがわかっていたからですよ

私を縛らないでください
この年まで培ってきた私の思想を
じっと押し黙って 何一つ語らないまま
燃えきれない炭のように
ブスブスと燻らせてきたのに・・・・

ほら見てください
目の前の 若い人たちは 今すぐにも
何の指標もない人生を歩きだそうとしていますよ
それでも 私は 黙っていなくてはいけないのですね
やっぱり どう考えても
私の役目は終わっています

だって 本当はもう 黙って
自分の部屋へ帰ってきてしまいたいと思って
私は こうして 別れの詩を書き始めているではありませんか
言葉がありません
この土地で 私はもう 何も語ることがないのです