女が男を捨てる時・・・・

 一人の少女が真っ蒼な顔をして

 
 乾いた笑いを浮かべていました


 頬も 目も 髪の毛だって かさかさになっていて


 少女の心には もう何も残っていなかったのかもしれません


 ある男に 恋をしていると 少女は言いました


 その人の家からやってきたのだと 少女は言いました


 でも 少女の命の火は いかにも弱く


 闇の中に ぼおっとかすんでいるみたいです


 まだ幼い あどけない少女の横顔


 実は三日前に 少女の母親の姿を見たのです


 年に似合わず 髪の毛にはすっかり白いものが混じって


 苦労の跡が しのばれました


 母は 父を 捨てたのです


 捨てられなかった永い年月の末に


 母は父を捨ててしまったのです


 家族の骨組みはがたがたになって


 少女は 心を砕きながら


 今日まで生きてきたに違いありません


 でも でも です


 母は たとえ父を捨ててしまっても


 家族を捨てられない悲しみを抱えていたのです


 やっぱり 母は 家族を支えて必死に生きて


 もう限界だったのでしょう


 少女の父は病気でした


 病気の体に負い目を感じながら


 もっと もっと病気になってしまいました


 女は優しい 生き物です


 女は悲しい 生き物です


 少女は今 母と父の悲しみを背に負いながら


 痛んだ体を 抱えながら


 男にすっぽりと包まれて生きることしか


 命の道を 見つけられずにいるのです


 なんだか 私も悲しくなって


 遠く離れて 少女の苦難を 


 ただ 見守るしかありません


 秋の空を見上げながら


 ふっと 息をついてしまいました