ほんとは 田舎になんか帰るんじゃなかった

これは誰も言えなかったこと
なぜって 
そういったら前へ進めなくなってしまうから
都会から田舎へきて
まずは隠せないほどの戸惑いで

焼酎を飲んで 君は近所を歩いて帰ってきた
「何ができるのかな」って
私も呑気だった
でも すぐに乳がんになって
私は病院のベッドの上

一つまた一つ気力で生きた
転校したての娘と息子を不安がらせないように
そればかりを思っていたような懐かしい記憶
毎日が暮らしに次ぐ暮らし
ただ 試行錯誤の日々の中

あふれる豊かな自然の中で、
日銭を稼いで食べ物を買い
生きるために必要な
いろんなものを手に入れる暮らし
そんな矛盾に気づき始めたのはまもなくのことだ


「君のサイクルで動いてるんじゃなくて
自然のサイクルで動くんだ」
そんなふうに怒られたことがあった
夜明けのこと 一緒に釣りに行こうとした私が
寝坊した日のことだった

それ以来 大自然の時の流れの中で
私は いつも頭を下げることばかりだった
でも すぐに大きな壁にぶつかってゆく
暮らしができない
仕事がないのだ

それからの日々は言葉に尽くせない
暮らしの大変さ
子育ての壁 学校 いじめ 不登校
苦しむ子どもと 貧困な暮らしと
なんだか戦いの連続だった

それでも仕事にありついて
高等学校の講師をしたり家庭教師をしたり
あっちこっちで ひたすら頭を下げながら
忍耐して忍耐して
私の田舎生活は楽なもんじゃなかったなあ

それからまだまだ私の人生の叙事詩は続く
私がいろんな夢を託した田舎の暮らしは
ふっふっふ 現実に押しつぶされながら・・ね