南の島通信 16

 朝の9時半過ぎから一人ででかけた。 久しぶりのことだ。

 3か月に一度の歯科検診に行かなければならなかったからだ。

 そこにいって、歯周病菌がいるのかいないのか、そういう検査を定期的にやる。

 それから歯の掃除、自分ではなかなかできないような、入念な歯磨きをやってくれる。

 家から車で50分くらいの所に、なかなか良い歯医者さんがいるのだ。

 そこにかかって、もう数年になる。

 
 まあ、それはともかく、いつもなら検診が終わるとすぐに自宅に戻って

 家族と一緒に食事をするということになるが、今日は、そうはせず

 自宅とは反対方向に車を走らせ、一人で、長い長いドライブをする事になった。
 
 島の海沿いの道を、ひた走る。

 特に今日は、雨が降って、もやがかかっているような薄暗い天気だった。

 その中を、懐かしい思いに浸りながら走っていく。

 
 この島に引っ越してきたのは24年も前のこと。

 来て早々に癌の手術をしたり、知らない土地での第一歩は大変だった。

 それからも、暮らしに追われながら、

 いつもいつも生きていくのに精一杯だった自分の日々をふりかえる。

 かつてのそんな暮らしの中で、悲しくなると、度々一人でドライブに出かけ、

 ほとんど車も通らないような道を、泣きながら走り抜けていったことが何回もあった。

 その道なのだ。そこを通って目的の歯医者へ行ったのだ。

 生きていくことの悲しみに暮れていたのは、そう遠い昔のことではない。

 それからもいろんなことがあって、私は自然に年を重ね

 自分に残された時間について、しみじみとした思いで考えている。

 私が老いる。そして、やがて死んでいく。

 でも、できればもう少し、やることをやっておきたいなと、思ったりする。