45年も昔のこと

二人がまだ若かった頃、一緒にデパートに行って、

タイプライターを買った。

なぜタイプライターだったのか、今、思い返してみると、

はっきりとした理由が、見えてこないけれど、

フランス語を、タイプライターで打ってみたいと

そう思ったことは、はっきりと覚えている。

連れ合いは、フランス文学やら、フランス思想やら、

私なんかより、ずっと、読み込んでいて、

私も、その影響を受けていた。

パスカルの『パンセ』なんて、心が揺さぶられるような感動だった。

そんな私たちは、大学の一年次でフランス語をとっていて、

確か野村先生だったと思うけれど、毎時間、楽しく勉強していた。

そうだ、こうやって書いていて、あの時、ほんの少しでも手を染めた勉強に

もう一度、向き合ってみたいなと、思い始めている。

人間は、底なしに弱い存在だが、その精神は、誇りに満ちていると、

そういうことを、何度も何度も思った若かったあの頃。

その思い出の品物として、ずっと戸棚の奥にあったタイプライター。

それを表に出して、机の上に置いてみたのだ。

オリベッティのバレンタイン、真っ赤なタイプライター。

まだ、動く。ほったらかしにしておいたのに、うっすらと文字が打てる。

ネットで調べたら、リボンを買える創業50年余りというお店がある。

近いうちに注文しよう。