台所讃歌

 こういうタイトルで、ずっと昔にも、詩のようなエッセイのようなものを書いた記憶がある。

実は昨夜、ずいぶん遅くなって、茶碗洗いやら、床の掃き掃除やら、台所をきれいにしたいと、

そんな思いにかられながら、黙々と仕事をしたのだった。

 私の傍から離れようとしない猫の「与作」と、もう一匹の「チビスケ」が、困ったような顔をしながら

台所の中をウロウロする。「もういい加減、夜中なんだから・・」と、猫たちの声が聞こえるようだった。

それでも、私の仕事はなかなか終わらない。二匹とも、大きなあくびをして、私の足元に顔を擦りつけてくる。

 時刻はもう一時過ぎ、周りの静けさに、引き込まれていきそうになるほど、シーンとしている。猫が二匹も

ウロウロしていたって、彼らは足音を立てずに行動できるから、静かな状況はまったく変わらないのだ。そういう中で

あらためて、「台所」という場所が、すっかり気にいっている自分に気づく。心が平安になる場所としての「台所」。

 思い返せば、またまた古い家を借りたのが、二年前の三月のこと。県道から山の方へ少し入った所に、すでに二年程

空き家だったという家は、木々に囲まれた豊かな自然の真ん中にあった。その家の歴史と共に、「台所」の歴史も日々刻まれてきたはずだ。

家族の食事が作られていた場所。家族が共に食事をした場所。いやそこで、家族が泣いたり笑ったりした場所。

一人になりたいとき、「台所」はいいな。