(手紙のような 詩のようなもの)

結婚するってね 
何にも難しいことではなく
大人になった男女が
いえ 時に男女じゃないこともあるかもしれないけれど
互いに愛し合って 一緒に生きていこうと思うっていうこと
一緒にっていうのは 一緒にっていうことだけれど
各々が別々に社会と関わりながらも
その一方で二人がまとまって社会と関わるようになるということ

だから結婚生活を始めるその時に
自分の関わりのある人々に
二人がまとまって社会と関わるので
例えば歩いてきた道幅が
一人分ではなく 二人分になったり
いただいていた食べ物が二人分になったり
いろいろ変っていってしまうので
「どうぞよろしく」ってね
まわりの人に語りかけてゆかなければならないの

二人がその日まで生かされてきたことに感謝しながら
まわりの人に ありがとうっていうことなの
二人でどんなふうにしてありがとうをいうのか
それを考えるのは二人の仕事
その仕事ぶりは どんなふうでもかまわないけれど
その仕事を他の人に委ねずに二人でやらなくちゃね
それが結婚するということの一番大事な仕事だから
その仕事の中身が 二人の生き方のメッセージだからね
そうしてもちろん二人の心が 
まわりの人へきちんと伝えられるか否かだけは
二人が大人になれたかどうかの試金石になるのだと思う

ふり返って
私とあなたの父との人生は
それがうまくできたかどうかというと
ほんのちょっと下を向いてしまうな
私なんか「主体性」とか「本質」とかいう言葉が
心の中に浮かんでばかりいてね
愛し合う二人の関係を本当のものにすることが一番重要で 
それ以外には何にも見えかったのかなあって
そこのところは 少しばかり後悔が残っているのです
でも あの日から40年が経って
いろんな大変な歴史を刻んで
今 あの時の選択の意味が見えてきていて
あんなふうにやってきたことを
二つとない自分の人生だったと しっかりとうなずいているの
そうして 傍らの大切なあなたの父を見つめながら
やっぱり私はもう一度生まれてきても
あなたの父と出会って
あなたの父と愛し合っていけるだろうなって
そんなふうにしみじみ思っているの

それはそうでしょう
今そうしているあなたの内面の基礎は
私とあなたの父とのかけがえのない暮らしの中で育まれたのですから
そんなあなたを 私もそしてもちろんあなたの父も
言葉に表せないくらい愛しているのですから
そしてね やがてもうそう遠くない頃には
今度はあなたの弟だって 私達の元から巣立っていきます
心やさしい 生きることの深い意味をつかんでいける素敵な人と
歩きだしてゆくに決まっていると
私も あなたの父も信じて疑っていないのです
さあ まだまだ語りかけることは尽きませんが
今日はこの辺で やめておきますね
私がこの地上にいられる間が
もう少しありそうだと期待しつつ
許される時間に まだまだゆっくりと
母としての私の思いを伝えていけるように思っていますから