石牟礼道子という人・・・

 

 人は生きる 人だけでなく 

 他の 多くの生きものが 生きているというのは

 当たり前すぎる言いようだ 

 ただし 生きている時間には もちろん 限りがあって

 その間が 永くても 短くても 命の燃焼に

 違いなどないと そんなことを想っている

 生きものが 生きて 生きものは 自然に 死んでいく

 この循環を 静かに見つめて

 この循環を 大切に見守ることができたら

 生きものにとって どれほど 穏やかな

 幸せな時間が過ぎていくことだろう

 そんな時間の流れは 表向きの雑事からは程遠いところで

 実は ずっと守られてきたのだとさえ思ったりする

 それが 壊されたのだった 

 そのほとんどは 人間の愚かな業によってだ

 戦争とか 諸々の争い事で 殺しあっったりして

 不意打ちのような死が つぎつぎに起ったのだと思う

 そればかりではない 金もうけのために

 品物を次々に作るために 毒物を垂れ流し

 海や山や川が 限りなく汚されて 

 生きものは 命の燃焼を 閉じることを余儀なくされた

 「水俣病」・・

 有機水銀が海を汚染して 数え切れないほどの被害者が出た

 亡くなった人々 その後遺症で永い年月を苦しみ抜いた人々

 体をダメにされた上に いわれのない差別に苦しめられた人々

 そういう人々の「声」を 聞き取ることができた

 まれにみる人としての 石牟礼道子

 もうずっと昔『苦界浄土』という作品を読んだ

 あの時の感動を 思い出した

 しゃべれない筈の被害者の声を 

 正確に聞き取ることができる人

 この人は いったい誰なんだという強烈な印象

 そうか 異界との架け橋に立っている人か

 腑に落ちる これほど腑に落ちることはない

 だから 彼女の言葉は 霊気さえ帯びているのだ

 異界も この世も 一続きなのに

 この世の 強者であることを 勝ち誇って

 戦争をし 子どもたちを 無差別に殺し

 弱い者たちを 踏みつぶしていき

 福島で パレスチナで たった今この時も

 殺戮は続き なんということもなく

 棄民は日常化している

 石牟礼道子を あらためて 思いなおす

 圧倒的な強者が 弱いものを次々に傷つけていく世界に

 石牟礼道子を 読み直そう

 声に出して 聞こえるように 読み直そう