身支度

これから仕事、午後三時半から夜の九時十五分まで、

途中四十五分の休憩があるから、拘束時間は五時間四十五分。

定時制高校の片隅で、生徒たちと戯れながら、

それとなく助言したり、その他もろもろのことをやって、

給料をもらっている。

車を運転して十分もかかるかかからないかの距離。

それなのに、私はきっちりと身支度をする。

何を着て、どんなイヤリングをつけ、今日などはブローチまで

気に入ったものを身に着けた。

もちろん化粧だって、微妙な色合いで、

決して濃すぎず、上品に決めてみた。

私は、私自身であることを、こんな風にして主張していると、

今日は、いたって本気で、心の中で思っているのだ。

いくつものことがあった。

その一つは、昼前まである映画を見ていたこと。

昭和37年制作のモノクロの映画『切腹

仲代達也、三国連太郎丹波哲郎など

歴史に残る名優たちが登場して、

私の心を揺さぶったことだ。

人間一人など、いとも簡単に押しつぶされていく時代に、

しかし、それを決して受け入れずに、闘った一人の武士。

その姿が、私の心に鮮やかに残っている。

さて、仕事に行こう。

私は身支度を整えて、仕事に出かけていく。