モンテーニュ 感動した冒頭部分

人間は、(古代ギリシアの格言がいっているとおり、)ものごとそれ自体によってではなく、かれらがそれについていだいているところの考えによって苦しめられている。

 もしこの説をどんな場合にも真実であると証明することができるならば、我々人間の境遇を慰めるうえにりっぱなよりどころとなるだろう。

 まったく、もし不幸がただわれわれの判断をとおしてはじめてわれわれのなかにはいってくるのだとすれば、それを無視することも幸いに転ずることもわれわれの思いのままになるはずだと思う。

           (『新選モンテーニュ随想録』P40 関根秀雄訳 白水社

 

 この一説を読んだとき、私は二度目の癌を宣告されることの恐ろしさから、解放されたように思う。

 「あれ変だ」と体の異変に気付いて、病院に行き、検査を受けて帰宅し、いく日か後にその結果を聞かされる。まさしく、検査の結果をほぼ予想できる状況下で、私はモンテーニュの言葉を聞いたのである。

 あの日から19年の月日が流れる。今、私は、自らの心の在り様を見つめている。そして、私の心に小さな声で、呟く。「素直であれ、人生の経験が、心を濁らせてはいけない。」と。