乳癌

 最初に乳がんになったのは、今から27年前である。連れ合いの生まれ故郷に家族で引っ越してきてすぐのことであった。腫瘍の大きさが、どれくらいだったか、もう覚えていないけれど、まだ初期のものだった。

 

 それから9年経って二度目の乳がんになった。最初の乳がんの後、ある時期からずっとサポートしてくれていた主治医が、「おそらくもう、大丈夫でしょう」といった直後のことだった。

 

 一度目の乳がんも、自分で見つけて受診していたが、二度目も自分で見つけ、「よく見つけましたね。」と主治医を驚かせた。ある日、何かおかしいと思って、自分から病院に行って検査をしてもらった。その日は帰宅して二、三日経つと、至急来院してほしいと、病院から連絡があった。

 

 ああ、やっぱり「再発」かと、怖さというよりは、どこか覚醒した言いようのない、不思議な気持ちに襲われていた。その時、なぜか、私の傍に『新選モンテーニュ随想録』があった。その中に「モンテーニュは貧乏・病気・死など、人生のもろもろの不幸をどのように考え、どのようにこれに対処するようわれわれにすすめているか」という「目次」を見つけ、引き込まれるように、それを読んで、ずいぶん楽になったことを覚えている。